「火要鎮」 監督:大友克洋

様式美と細部にこだわった“静”と“動”の対比を楽しんで下さい。 — 大友克洋

アヌシー国際アニメーション映画祭で短編アニメーションをいっぱい観て、自分たちも作ってみたいと思ったのが始まりです。そのとき海外事情に詳しい方から「フェスティバルに出すなら日本的なものがいい」と聞いたので、「江戸もの」に決めました。以前に漫画で描いた「火要鎮」は博打や刃傷沙汰などドロドロした長屋話で画になりにくいので、前半は絵巻物風の「静」の世界、後半は派手な火事とアクションの「動」をピークにもってきて、「江戸の火消しの話」をちゃんと描こうと思いました。

ただしアニメーションで江戸をリアルに描くのは難しいんです。もちろん当時の資料を集めたり江戸東京博物館に行ったりしましたが、調べれば調べるほど次々に出てくるわけです。江戸の髪型を研究されている方にも話をうかがいましたが、年代ごとに変わっているので「どの時代ですか?」なんて聞かれるわけです。学者やドラマで時代考証をしているような専門家にはかなわないし、正確にしすぎると逆に不思議なものにも見えかねないので、リアリズムよりは昔の絵巻物の様式美っぽい感じを目標にしました。平行パースにしたり吹抜屋台の手法を使ったり、フレームの上下を切って横長のスコープサイズにしたのも、絵巻物風にするためですね。

火事のスペクタクル表現については「伴大納言絵巻」の中に応天門の火災を描いたすごくうまい絵があって、その煙の表現の仕方や炎のフォルムをスタッフに見せて「これを動かそうよ」と提案しました。最後の爆発だけは透過光を入れてますが、炎の基本は塗りだけでいくなど絵巻物風を重視して、『大砲の街』(MEMORIES)のときと同様に小原秀一さんにエフェクト的な表現を工夫してもらっています。

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