「火要鎮」 監督:大友克洋

自分はシナリオなしで絵コンテを描き始め、ほぼ全カットのレイアウトと背景原図を担当して、ひたすら瓦を描いてましたね。レイアウトはフレームとレンズの選定に相当しますから、いつも自分で決めるようにしています。ただ最初の江戸の街を描くのは大変でした。絵巻物風の一枚絵の中でカメラが寄ってズームする感じを出そうと、だんだん家を大きく描いていき、最後は大店(おおだな)の裏庭まで行く。ジワジワ寄るのを絵で描いたほうが不思議な感じがして面白いんじゃないかなと。

便利なツールとしてのCGも使っています。着物の柄と刺青は、筆で描いたテクスチャを手作業で1枚ずつ作画に貼りこんだものです。手間はかかりますが、構図も限られているので可能なレベルです。人物の一部も3DCGで、冒頭の子どもは長回しで小さい被写体が大量に芝居するので、作画では難しいと判断してCGにしました。火消しのモブ(群衆)もCGですが、モーションが手づけで「走り」が難しいので、スタッフや自分達で長い棒を持って走って、それをビデオで撮って参考にしました。そもそも江戸時代は侍や飛脚以外は走らないし、走っても手は振らなかったそうですね。

日本髪も作画の上からカツラのようにCGをかぶせたものです。髪型を立体的な形を保ったまま回転させるのは作画だとものすごく難しいことなので。「生え際で髪がほつれているCGが見たいな」などと無茶を言って試行錯誤してもらいましたが、最終的には照明を落としたので全然見えていないですね(笑)。結局、江戸をアニメーションで描くのが大変なのは、こうしたディテールが原因です。着物を作画するにもまずシルエットが難しく、帯の結び方から何から、なかなかうまく描けない。歩いたり座ったり立ち居ふるまいも下手に描くと浴衣みたいに見えてしまうので、制作の女性に晴れ着を持ってきてもらい、みんなでビデオ撮ったり写生会みたいなこともしました。

そんな風に様式美と細部にこだわった作品ですので、ぜひとも映画館に来ていただければ幸いです。今後も実写、アニメーションなどいろいろな企画が動いていますので、楽しみにしていてください。

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