「武器よさらば」 監督:カトキハジメ

それから読者はそれぞれ脳内で思い出補正して原作を記憶してるはずだから、「今の表現ならこのくらい」と行間を埋め、30年間で進化したミリタリー技術や映像の差分を調整するという作業になりました。たとえば敵メカのゴンクは詳細に描かれたコマばかりではないのに、しっかりと地面に立脚して暴れ回る姿として記憶していますよね。そんな原作の印象を、さらに塗り増しするように補強していく方向性です。また「エンタメだしカトキだし」という向きもありましょうし、できればプロテクションスーツを立体商品化したいという想いもありますので、スナイパータイプ、キャノンタイプといった装飾を加え。エンタメ的に楽しめるところは全方位的に足していくという姿勢で、原作に正面から向き合うということが大事だと考えました。

私は映像づくりが初体験でしたから、『スチームボーイ』から『FREEDOM』を経て9年間やってきたサンライズ荻窪スタジオの熟練のスタッフワークはありがたかったです。演出を担当してくれた森田修平さんを筆頭に、CGI監督の若間真さんやレンダリングチーフの大原伸一さんたちが、これまでの蓄積のすべてを投入しています。モニター画像も撮影のT2studioの力作ですし、美術は押井守監督作品で東京が舞台のバトルを無数に描いてきた小倉宏昌さんで、大友さんの線の感じを活かすという難しい要求にもよく応えてくれました。作画監督の堀内博之さんはスタジオに住みつくような感じで熱心に修正していましたし、エフェクトでも非常に多くのアニメーターに関わっていただいています。私はこれまで大友作品には全然縁がなかったのですが、「すごいとこに来ちゃったな」という良いアウェイ感を体験出来ました。

原作の印象を伝えるという点では、ラストに代表されるあの独特のニュアンスについても課題で、大友さんのテイストというのは、そうした部分も大きいですから。そんなときに大友さんから「短編は詩みたいなものだから」という言葉をいただきまして、僕なりの理解になりますが、言葉で意味を伝える散文に対し、厳選された少ない言葉が気持ちを動かすのが詩ということかなと。それが大きなヒントになりましたね。

原作を知らない方たちにどれだけリアルタイム組の気持ちを体験してもらえるかと努力した短編です。大友作品を長年作ってきたスタッフとスタジオが心血そそいだ最高の短編なので、ぜひその円熟した技術の結晶を楽しんでいただければと思います。

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